事業再生、迅速に 債権放棄 全員の同意不要 

事業再生、迅速に 債権放棄 全員の同意不要 

【平成26年4月29日 日本経済新聞】

事業再生、迅速に 債権放棄 全員の同意不要 私的整理見直し

 政府は企業に事業再生を促すため、不良債権の放棄を取引銀行に求めやすくする。会社更生法のように司法にたよることなく再建できる「私的整理」の制度を見直しのが柱。企業が債権放棄してもらうには銀行団全員の同意を必要としたが、全体の4分の3など多数決で受けられるようにする。法的整理は企業イメージを傷つけやすいが、私的整理を使いやすくして産業の新陳代謝につなげる。

成長企業の存続支援

 政府が見直すのは私的整理の代表的な手段である「事業再生ADR」。2007年に導入した。経済産業省や法務省など関係省庁が法規制の見直し作業に入っており、6月に政府がまとめる成長戦略に盛り込んで、15年度の導入を目指す。
 私的整理は不振事業を切り離したい企業が、銀行に債権放棄などをしてもらう際に使う。会社更生法などの法的整理を使うと、企業イメージが大きく損なわれる場合が多い。金融機関だけでなく、仕入れ先などの債権もカットされるため、取引再開ができずに再建そのものが難しくなるケースもある。
 事業再生ADRによる私的整理は、原則として金融機関の融資部分だけを放棄するため、仕入れ先などにしわ寄せが起きにくい。仕入などの取引を維持しやく、法的整理に比べ早期再建が可能。ただ債権放棄などの再生計画は銀行団全社の賛成が必要となるため1行でも反対すると進まない。そのため、07年以降の利用は39件にとどまり、日本航空やウィルコムなど申請後に法的整理に移る事例も少なくない。
 政府が検討する改正案は、全会一致が必要だった債権者集会を多数決に変える。同じような制度がある米欧の主要国は「多数決」を原則とする。イギリスは「債権額の75%以上かつ株主の額面の過半数」、米国は「債権者の過半数かつ債権額の3分の2以上」だ。日本もまず英国と同じような全体の4分の3の賛成で債権放棄案が可決できるようにする方向だ。
 金融庁も事業再生ADRの利用を促すため、銀行の検査指針を見直す検討に入った。不採算事業を切り離すことで再生が進みやすくなる企業については、銀行が一時的に「不良債権」と査定しても早期に「正常先」に戻せるようにする。
 政府は11年の東日本大震災の発生後、借入金の返済を猶予する「中小企業金融円滑化法」を導入するなど、企業の経営破綻を抑える施策を進めてきた。円滑化法は13年春に終了し、不採算事業を早めに整理して産業の新陳代謝を促す制度も取り入れる。3メガ銀行など大手行は過去最高水準の利益をあげており余力があるが、地域金融機関にとっては債権放棄の負担が増す可能性もある。